【映画】『アイの歌声を聴かせて〜sing a bit of harmony〜』が面白すぎたので感想とか考察を。

神楽坂つむり

映画,
普段は自転車旅のこととか写真とか馬のことばかり書いている私だけれど今回は別ネタで書かざるを得なかった。

間違いなく今のところ個人的令和ナンバーワンアニメーション映画となりました。

つい昨日には日本アカデミー賞優秀アニメーション受賞もされましたが納得でしかない。

アイの歌声を聴かせて-17
『アイの歌声を聴かせて〜sing a bit of harmony〜』

あまりに良すぎて映画館に3週間連続観に行った感想や考察をつらつらと。



2022.08.01 追記
ついにBlu-rayが到着しました。
本編はもちろんのこと特典映像のビデオコンテが凄まじかった・・・!
「アニメーション映画ってこうやって作ってるんだ!」って言うのが垣間見られたというか、制作現場の裏側を除いているような感覚。本編と同じ長さで用意されていて、これをたっぷり観られてるってだけでも何万円もの価値があると思う。カメラアングルや回し方、撮影技法についても知ることができて、よりアニメーションを楽しめるようになるような内容。たまんねぇ!




2022.3.10 追記
ついに配信開始されました!
これでいつでもアイ歌を見られると思うと胸が熱い・・・!!





※6000文字程度のネタバレ120%です。未視聴の方はご注意ください。

2022.01.25 考察について追記(シオンのはぐらかしとその理由について)

アイの歌声ポスター
『アイの歌声を聴かせて〜sing a bit of harmony〜』は『サカサマのパテマ』『イヴの時間』で知られる吉浦康裕さんが原作・脚本・監督を務めたオリジナル長編アニメーション映画作品で、ざっくりとジャンル分けするならSF映画。私のポリシーとして「気になる映画は前情報を一切仕入れない」があったから、今作も映画館で観るまではそのジャンルすら知らなかった。

ただただ口コミで「面白い」という感想を聞いて頭の隅に引っかかっていて、調べたら吉浦監督ということで、「じゃあきっと見応えがあるんだろうな」と思っていた。思っていただけで、そのうち配信されるだろうからそれで観ようか、くらいに思っていたけれど、私が信頼している映画好きの人が「これは絶対に映画館で観ないとダメだよ」と話をしていたから足を運ぶことにした。

結論から言うと

「絶対に映画館で観るべき」

作品であることがよおおおおおおおおおおおおく分かりました。ありがとう友人A。

昨年の「一生に一度は、映画館でジブリを。」の時にも書いたけれど製作側の熱量を余すことなく受け取るためには、映画は映画館で観てこそ、その真価を発揮すると実感した。そして本作も製作陣の「本気度」がハンパない作品ということは断言しておきたい。なんでそんなことが分かるってそれはもう観たらすぐ分かると思う。

アイの歌声を聴かせて-4

世界観の作り込みやキャラクターの設定、音楽、音響、脚本、演出、演技、全部ものっすごいバランスで絶妙にマッチしていた。そしてそれがハイクオリティで上質だった。脚本には大河内一楼さんが入っていて、吉浦監督とはメールベースで共同脚本という形でラリー形式のようにやりとりをして作り上げていったらしい。吉浦監督曰く「僕は一人で脚本を書くよりは、こうして誰かとブレストしながら作業をした方が良い」と話をしていたのが印象的だった。

ちなみに吉浦監督へのインタビューをしている動画が「二字通クリエイターインタビュー」で公開されているので興味がある人はぜひ。


『イヴの時間』から続くAI論やアニメーションの魅力なども語られていてとても見応えがありました。
さすが吉田さん。良いインタビュー。



1回目は先述したように、何の前知識もなしにぶっつけ本番で鑑賞した。

そのタイトルから「恋愛ものかな?」くらいの今思えばとんだ見当違いの心構えで観たものだから、良い意味で裏切られた。色々と。物語が最初から最後まで垂れることなくドライブし続けて伏線を回収しながら綺麗に、とても綺麗に大円団を迎えてスタッフロールが流れる時には胸がいっぱいだった。

パンフレットを買って隅々まで読むと、なるほど、なるほど・・・!
と色んなこだわりを知る事ができた。だから次はその確認も含めて、そして違う目線で楽しもうと思っていた矢先に、吉浦監督が大阪に来てスタッフトークする特別上映があると聞いて迷わずに申し込んだ。

アイうた映画館

そこで吉浦監督の話を聞いて、製作側のさまざまな拘りや四方山話を聞く事ができて、じゃあ最後にもう一回観ておかないと!と思ってついさっき塚口サンサン劇場で3回目を観てきた。

アイうた映画館2
大満足だった。胸がいっぱいだった。


本作を語る上で外す事ができないのが音楽で、私はこの音楽にハマったと言っても過言ではないと思う。もちろん脚本も演技も作画も外せないんだけれど、その全てに共通した根幹的な要素が音楽だと思う。

「ユー・ニード・ア・フレンド〜あなたには友達が要る〜」
「Umbrella」
「Lead Your Partner」
「You've Got Friends〜あなたには友達がいる〜」
「フィールザムーンライト〜愛の歌声を聴かせて〜」

の計5曲の楽曲が作中の要所要所で流れるけれど、要するにミュージカルだ。それもミュージカル
“風”じゃない、割とガチのミュージカルだった。

これが私の好みにドンピシャというのもあったかもしれない。実は結構ミュージカル好きで、映画で言うならば『ウエストサイドストーリー』なんかは高校生の頃に何度もレンタルして観た事があるし、『雨に唄えば』のような演出も大好きだ。言葉や文章やただの音楽だけでは表現できない感情や情景を表現してくれるのがミュージカルの魅力だけれど、これを現代のアニメーションで表現するとこうなるんだ!っていう感動を『アイの歌声を聴かせて』では思う存分堪能することができる。

アイの歌声を聴かせて-2

例えば「ユー・ニード・ア・フレンド〜あなたには友達が要る〜」アヤとサトミが音楽室で口論していたところで突然始まるこの楽曲なんかは演出面では現実を超えた過剰な表現を細部に見ることができる。
アイの歌声を聴かせて-3
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スピーカーが現実以上に振動し、音符がホワイトボードに映し出され、AIロボットたちも踊り出す。通常こうした過剰演出は少し不自然になりがちだけれど、日常パートと同じかそれ以上の丁寧さで「手書きで」作画がされているおかげで驚くほどシームレスに進んでいったのが印象的だった。

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みんな大好き?「Lead Your Partner」ビッグバンド編成のアップテンポな楽曲と作画の融合が素晴らしいワンシーン。

「手書きアニメでちゃんと歌唱させるというのが技術的な課題でした」と吉浦監督が話をしていたように、どう見たって簡単なことじゃないけれど、ものすっごい力量で書かれていることがヒシヒシと伝わってきた。島村秀一総作画監督も今回は余裕を持ってスケジューリングできたからこそ作画に力を入れることができた、そして事前資料として実際に演技している動画も用意してもらえて助かったという旨も映画パンフレット内のコメントで書かれていてなるほどなぁと思った。

他の楽曲シーンとも共通しているけれど、舞台が何か夢物語やSF映画のような特別な場所ではなく、日常生活の中で繰り広げられていると言うのも、日常パートとの親和性を感じさせる要因だと思う。

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アイの歌声を聴かせて-13アイの歌声を聴かせて-14

ソーラーパネル群で歌われる「You've Got Friends〜あなたには友達がいる〜」はある意味本作のハイライトでもあり演出もこれ以上ないってくらいモリモリだけれど、このシーンもシオンがサトミの部屋でムーンプリンセスの映像を見ていたことを思うとなるほど〜〜〜〜!と感動しちゃう。

この辺りは初回ではただただ感動するだけだったけれど2回目あたりでは余裕を持ってその関連性を味わうことができた。パンフレットではムーンプリンセスの絵コンテを見ることもできるから、気になる人はぜひチェックしてみて欲しい。

先のインタビューの中でも吉浦監督が「コメディが好き」「古典が好き」と話をしていて、それをアニメーションに落とし込み結果としてミュージカルになる、といった件の話はまさに本作を観るとなるほどなぁと思うばかり。カメラワークも中望遠レンズをたくさん使っていて、なるほど古典だな〜〜〜と3回目では実感することができた。

ちなみに2回目と3回目の上映の前には「フィールザムーンライト〜愛の歌声を聴かせて〜」のMVが上映された。



映画を観る前に改めてこの楽曲を聴くとなるほどムーンプリンセスが本作の軸になっているんだなぁと言うことがよおおおおおく分かった。それは他の曲のリフレインやメロディ、歌詞と言った音楽的な要素はもちろんだけれど、サトミやシオンの言葉選びや、月や星空の表現にも反映されていた。くう、巧い。

ミュージカル楽曲を合間合間に挟みながら物語は進んでいくけれど、全ての楽曲は、その幕間の展開の影響を色濃く受けている、という点も観ていて面白い仕掛けだなぁと思った。

もっと言えばシオンが何を聞いて、何を見て、それをどう捉えたかの答えが楽曲に現れている。AI的にいうならば学習機能の表れ。そんな風に観ていて思った。トウマの協力もあってシオンが「生まれて」から8年の間に何が起こっていたのかが分かるあのシーンの会話で「AIが人を幸せにすることがあるか?」と言うある意味吉浦監督作品の根幹に迫るような問いかけがあったけれどそれに対して「AIがそれをどう捉えるかによる」と答えられていた。つまるところシオンの行動原理は確かに命令を基本としているけれど、それだけじゃない、「シオン自身の考えが確かに存在する」と言うことも物語のあちこちから感じることができる。

私が違和感を感じたのと同時に、上記の「シオン自身の考えが確かに存在する」ことを感じたのは以下のシーンだった。

アイの歌声を聴かせて-12

サンダーの祝賀会をサトミの家でしていた時に「どうしてシオンはサトミの名前を知っていたの?」とトウマが聞いた時にシオンは「その質問、命令ですか?」と返した。

私なりの勝手な解釈だけれど、この時、シオンはいわゆる「はぐらかす」ことをしたんじゃないかと思う。シンプルなAIだったらこんな返答はせずに純粋に答えるか、分かりませんと答えるはずだから。けどシオンはトウマの言葉を借りると「高度に発達したAI」だ。

「その質問、命令ですか?」

このセリフは星間ラボからシオンを救出するときのあのセリフと繋がるんじゃないかと私は思う。

「秘密はね、最後に明かされるんだよ」

と。

なるほど〜〜〜〜〜〜〜〜!と3回目、つまりさっき鑑賞した時に繋がった!と思った。
シオンがサトミの名前を知っている理由は、あの卵型の、サトミのお母さんが作った「ただのおもちゃ」に過ぎなかったあのAIが、シオンそのものだったから。サトミの名前は最初から知っていた。他でもない「どうしてシオンはサトミの名前を知っていたの?」と質問したトウマに教えてもらった名前だ。けれど、祝賀会のタイミングでトウマから質問された時、そのことをあえて言わずに、はぐらかしたシオン。


何が憎いって・・・どうしてシオンはそんなことをしたのか?
って思うけれどすぐに答えも分かった。サトミのセリフ「それもムーンプリンセスと一緒」

アイの歌声を聴かせて-7

ああ〜〜〜!だから秘密にしていたのか〜〜〜〜〜!
泣く。

「シオン自身の考えが確かに存在する」けれどあくまでAIだ。学習機能として何かしらの影響を必ず受けている。そしてそれは他でもないムーンプリンセスなんだ、と。「ムーンプリンセスが本作の軸になっている」と先述したのはこういった演出やセリフが垣間見ることができるから。

けど人間だって考えてみれば色んな経験や知識、人との関わりの中で学習していく生き物なのだから、こうなってくるといよいよAIと人との違いとは何か?っていう命題が生まれてくるとも感じた。

ちなみに「それもムーンプリンセスと一緒」と言った後に二人で笑い合うシーンが個人的には本作で一番好きなシーン。ほんの3秒くらいだけど。なんというかあの瞬間はどう見ても人間同士にしか見えなかった。脳内で何十回とリピートしてる。作画的には「Lead Your Partner」の最後の「アン・ドゥ・トロワ」でサンダーがシオンを投げた時の逆さまになって落ちていく瞬間のシオンの表情(熱弁)

トウマが命令した「サトミを幸せにすること」それをシオンはどう捉えたんだろうか?
幼い頃のサトミが幸せと感じていたのがムーンプリンセスを観ている時だったから、シオンもそれに倣ったんじゃないだろうか、と思う。そう考えるとムーンプリンセス全編見てえ〜〜〜〜って思っちゃう。きっとシオンはあの卵型のオモチャの奥からサトミと一緒にムーンプリンセスを観ていたんだろう。
アイの歌声を聴かせて-6
本作のタイトルの副題になっている「sing a bit of harmony」も忘れてはいけないと思う。
直訳すると「ハーモニーを歌おう」「調和を奏でよう」とかになりそう。そこにa bit of〜が付くから単純に考えるならば「小さなハーモニーを歌おう」とか。実際は「さあ、歌おう」というストレートなキャッチがいろんなところで使われているけれど。

個人的に注目したいのはやっぱりSF要素のあるAIモノなのだからbitの部分。少しパソコンに詳しい人ならbitと聞いたらデータの大きさのことを連想すると思う。厳密には二進数の1桁であり、AI的には記憶や思い出を指すのかもしれない。

写真をたくさん撮って「バックアップ」と表現していたり、過去の映像を大事にしていたり、シオンの思い出についての物語だったのかもしれない、なんて妄想もできてしまう。サブタイトルひとつでオタク特有の早口になってしまう〜〜〜。

ハーモニーも音楽的な意味はもちろん人間とAIの調和という意味も含まれているんじゃないだろうか、とかも勘繰ってしまう。singはそのまま歌だろうけれど、本作における歌はただの歌というよりも想いを伝える手段であるようにも思える。

そもそも『アイの歌声を聴かせて』というタイトル自体も秀逸だなぁと。単純にアイ=愛とも捉えられるし、物語を知った今ではアイ=AIとも思えるけれど、どうしたって本作を観るとシオンをただのAIと見ることなんてできない。関係者の中にはシオンを「アイちゃん」と呼ぶ人もいると聞いてちょっと笑ってしまったけれど。

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「聴かせて」は誰かが誰かにお願いしている言葉だ。。誰が?誰に?これも考えるだけでなんだか楽しい。もしかするとムーンプリンセスを観たシオンが歌詞の中にある「愛の歌声を聴かせて」を覚えて発している言葉なのかもしれないし、サトミが「歌ってよ」と涙声に言葉にしていたように、目覚ましにするくらい大好きなあの曲を歌って欲しいという、サトミの想いを表現したものなのかもしれない。

脚本や演出、作画という点では技法やテクニックといった切り口でいわゆる「分析」をすることができるんだろうけれど、本作は音楽、ミュージカル要素がその全てと絡んでいて、解釈や感じ方が人によって異なる仕掛けが施されている点が面白いと思った。私一人の中でも毎回観るたびに感じること、面白いと思うことが違うのだから、間違いないと思う。



なんだかややこしい感想や勝手な妄想をつらつらと書いてしまったけれど『アイの歌声を聴かせて〜sing a bit of harmony〜』はそんなことは抜きにして純粋にアニメーションとしてめちゃくちゃ面白い作品

公開から三ヶ月が経過しているのにも関わらず今でも場所によっては劇場公開されているようで、なんなら地方では追加公演もあるらしい。それが終われば何かしらの形で映像化されるはず。絶対買う。


どうしてわざわざこんな記事を書いたのかというと、単純に面白くて感動してそれを言語化して残したかったからというのと、考察をする機会を設けてゆっくり咀嚼したかったから。そして、まだ観ていない人に「こんな面白いものがあるんだよ」と伝えたいからに尽きる。

そして海外での上映も始まっているみたいで、早くも大絶賛らしい。

アイ歌海外版
海外版のパンフレットも素敵。
全体的にシンプルだけれど本作の特徴を「手を繋ぐ」「それぞれの表情」で巧く表現していると思うけれど、これは観る前と観た後では印象が変わりそう。良き。

口コミと評判でじわじわと広がりつつある本作。
世界中の人がこの映画を観る可能性がある。それってすごいことだと思いませんか?

ということで興味がある人は是非チェックして見てほしい。

    
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