【奈良〜三重〜和歌山】ちょっと自転車で大台ヶ原ヒルクライムしてそのまま太平洋にダウンヒルしてきた〜後編〜

神楽坂つむり

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よし、太平洋行くぞ〜〜〜!

と思い立った私の行く手を阻む、最高に荒れた道。
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行くも地獄、引くも地獄。
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林道辻堂山線とやらを使って南方向へダウンヒルすることに。
地図上では大台河合線、と言う名前になっていて、県道で言うと226号線。

うん、登ってる最中に気になったので。
頂上から10km手前にある大台ヶ原ヒルクライムルートの唯一の分岐点で、
ここ通るサイクリストなんてほとんどいないんじゃないだろうか、と言うところ。

「地図見る限り南方向に伸びてるし太平洋見に行くのならちょうどいいんじゃないかな」

くらいのノリで言ったらとんでもない道だった。
とにかく道が悪いのと、狭いのと、クネクネ。
小橡川と言う川沿いにひたすらダウンヒル。
あと斜度も10%くらい。
まぁつまり和歌山のよくある道です。

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落ち葉だけかと思ったら所々小石が落ちてるから油断ならないよ。
ちなみに何度か前輪滑りそうになったよ。
安全第一で。
車1台分くらいの幅しかないブラインドコーナーばかりだから、対向車きたらまずい雰囲気。
こう言う時は頼りになるのはディスクブレーキと28Cタイヤと自分の荷重バランスと耳。
エンジン音が聞こえないか注意しながら右、左、右、左とリズムよく降る。
時折、落ち葉が酷すぎて何も見えない路面がある。
もはや突っ込むしかない。
石や溝がないことを祈る。
下りなのに速度を出せないからちょっと損をした気分に。

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でもこの林道辻堂山線……景色が最高です……


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最高です……


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これさえなければ……

とにかく油断できない!

けど、考えてみれば急ぐ必要もないし、ゆっくりマイペースで降ることに。

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だってこんなに紅葉が綺麗なのだから!!

28-300mmレンズを持ってきた甲斐があるというもの。
わざわざこんなヒルクライム三昧の日に、カメラとレンズ合わせてゾンダホイールよりも重いものを、背負って走るんだから我ながらバカだなと思う。
けれど、撮りたい絵があるのだから、仕方ない。
トレードオフだ。
代償はつきもの。

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300mm望遠の力。

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ああ〜〜〜良い紅葉なんじゃ〜〜〜!

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DEDA DCRシステムのおかげでケーブルフル内装。
それにしてもこうしてみるとGARMIN大きい……
いっそ無くしてもいいかも。

そんなこんなで上北山村が誇る酷県道をダウンヒル仕切った私。
疲れたー!

ようやく国道169号線に合流して、さっきまでの道が嘘のように、快適な道へ。
ちなみに後から気付いたのだけれど、この合流地点から少しだけ戻れば道の駅 吉野路上北山があったらしい。
知っていたら補給したかも。
いや、無くてもいけるかも。
結局、結論から言うと大台ヶ原でカレーを食べて次に補給したのは80km先の太平洋側の道の駅だった。
けど不思議と最近補給全然なしで80km近く走れるようになってきた。
どういうことなのかはよくわかっていない。

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ここからの道はひたすら太平洋までずっとこんな感じ。
北山川沿いに南下して途中にあるのは池原貯水池。
さらにそこから七色貯水池を横目に見ながら大又川沿いへ。
つまりずっと川沿い。
これが和歌山あるあるで川の数がものすごく多く、川沿いに道路が整備されていることがほとんど。
距離80km〜120kmの40km区間、ずっとこんな感じで少し無我の境地になったり…。

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穏やかすぎる。


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和歌山の自然の美しさって毎回思う、深い。


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!!!!三重県入ったあああああああ!(熊野市ってずっと和歌山と思ってた)
でも熊野本宮大社は和歌山だよね……ややこしい。
海までひたすら国道169号線と思っていたらいつの間にか国道390号線、県道156号線と重複区間に入れ替わっていたり。


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この景色。
ただただ気持ちが良い。
100km超えても足は全然疲れる気配もなく、快調。
踏むという感覚は全くなくて、クルクル回転する感じ。

もう随分長いこと山の中走ってるな〜
と思いつつ「おや、なんだか下り基調が始まったな。」
そしてふと遠くに目をやると

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!!!!

あれは……!

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太平洋だ!!!!

思わず声が上がった。
だっていきなり見えるんだもん。
ダウンヒルする先の山の隙間から太平洋を青が視界に飛び込んできたときには、もうなんだか嬉しくて。
大台ヶ原からなんだかんだ長かった……やったぜ……

最後のダンヒルはこの佐田坂というところで、これが意外とがっつりダウンヒルだった。
逆ルートだったらタフな登りになりそうな雰囲気。
あとでデータを見てみたら4kmできっちり300m下っていたから、平均勾配を鑑みても7.3%くらい。
なかなかタフだけれど、降る分には最高!でした。

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熊野市、鬼ヶ城からの海景色!

時刻は14:30。

「あれ、思ったより余裕があるな?」

と気付いた。

うーん、快走だった模様。良きかな〜〜。

しばらくゆっくりと太平洋を眺める。
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たまんない……。

さて、ここからどうしよう。
目的は達成した。
大台ヶ原の山頂でふと湧いてきた「海を見たい」という目的を。
ここから私が考えないといけないのは「家までどうやって帰るか」問題。

ご存知の方も多いだろうけれど
大阪から見たときの和歌山県南部というのは鹿児島くらい遠い。
関東の人にとって分かりやすいのは房総半島の九十九里浜みたいなものだろうか。

「隣の県のはずなのに帰るのに大阪〜東京間の新幹線より余裕で時間がかかる」

のがここ和歌山で…

具体的印はここ熊野から帰ろうとすると右回り(名古屋経由)で4時間半
左回り(串本経由)で5時間かかる。

鹿児島中央駅〜新大阪駅より時間かかってるぞ!
隣の県だぞ!!

終電時間を調べるとそれこそ18時とかだったので
絶対に乗り過ごさないように注意しながら、行けるところまでは走っておこうということで、串本方面に向かってペダルを踏むことに。

ちなみにここ鬼ヶ城近くの国道311号線、突然自転車が通行できないトンネルが登場する。
具体的にはここ
車道を走っていると割と突然出てくるから、戸惑う人も多いはず。
私もびっくりした。
で、あたりを見渡すとどうも上の地図でも示したように「鬼ヶ城歩道トンネル」というのが北側に通っているようだったから行ってみると

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あった!!


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煉瓦造りが渋すぎる……手作業感がたまんないぜ……


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右が歩道。左が車道。
左の車道は車が通ることもあるから、歩道推奨。
なぜなら車が一台通ったら一切の隙間がなくなるので。(私ならここを車で走りたくない)

トンネルを抜けると知らない町。
熊野の町。
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全く知らない土地に来るのは思えば久しぶりだな〜と思い出す。
うん、この感覚、
思い出す。
好きだなぁ。

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あとはひたすら国道42号線を南下するよ。
どこまで南下するかは決めてないけど終電時間が来るまでは、行けるところまで行くよ。

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和歌山だな〜〜〜!!!


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さっきまで山の中にいたとは思えない目の前の景色。
和歌山の面白いところ。
内陸はほとんど険しい山岳地帯。それこそ90%以上は山と言ってもいいくらいの土地。
けど外周部はほとんどが海でこうして山を抜けると太平洋が迎えてくれる。
どっちを走っても自転車的には厳しい場所だけれど
景色のダイナミクスさでは全国的にもトップクラスだと思ってたり。
走りに来るたびに思う。
優しくないけど、満足度はものすごく高い。


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獅子岩、というらしい。


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ここからはひたすら愚直ダッシュで、30kmほど海を左手に見ながら走り続けた。

150km地点。
辿り着いたのは新宮という町。
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何故だかわからないけれど、ここで終わろうと思った。

体力的にも時間的にもまで南下できるし、なんなら本州最南端の串本まで行ってもよかった。
けれどなんだか心が満たされてしまって…これ以上走るのはなんだか野暮な気がして。

それに調べてみると新宮駅から特急くろしお号が新大阪駅まで出ていることがわかった。
始発駅らしい。
うん、ちょうどいい。
それに発車時刻までまだ2時間くらいある。(終電)
自転車はもうたくさん漕いだし、残りの時間をこの知らない街を散策する時間に当てようと思った。

夕暮れ時の知らない街をあてもなく彷徨うなんて贅沢な時間。

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新宮市。
レトロな雰囲気があるけれどどこか歴史を感じさせるのは、世界遺産の街ならでは、だろうか。
「熊野信仰」
思い出した。私は幼い頃、この辺りによく祖父に連れてこられていた。
初めてじゃない。
思い出した。知っている。
もう20年以上前のことだけど、記憶の断片にある。

亡くなった祖父の書斎で見た日本書記の訳書には「熊野神邑」と書かれていた。
それがここ新宮の当時の地名。
先述したように自然豊かな和歌山だけど、それは裏返せば自然が強いということ。
いにしえの人々にとっては、めぐみを与えてくれる存在でありながらも
生命を脅かす存在でもあった。
ゆえに感謝と同時に畏怖の念が生まれ、それは自然信仰に繋がっていく。
そんな話をよく聞かされたことがある。

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熊野速玉神社。
熊野本宮大社、熊野那智大社とともに熊野三山を構成する大社。
かつての人々はかの過酷な熊野古道を経て、熊野詣でをしたのだとか。
服装も装備も整っていない時代に、和歌山の山奥に入るなんて、正直、想像できないけれど
命がけの旅の果てにここに辿り着いた人たちは、みんな涙を流したのだとか。
それが何になるのか?なんて他人が言えることでもないだろう。
でもきっとその旅はその人にとって生涯唯一かけがえの無い体験になったんだろうと思う。

私は信仰があるわけじゃ無いけれど、単純にその旅路に尊敬の念を抱く。
その片鱗を味わうことができるという意味で、この旅にも意味があると思う。

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さて、熊野速玉神社でかつての記憶、熊野信仰を思い出して後にする。
と、気になるお店が道路沿いにあった。
もう気になって仕方ないから、すぐに入った。


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新宮はこう言った佇まいの建物がものすごく多い。
真横から撮りたくなる。

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柿乃肴。kakinoate。
どうやらこの辺りでは有名な柿の葉寿司のお店なのだとか。


柿の葉寿司は関西に住んでいるというのもあるけれど、よく食べる。
自転車旅で奈良とか和歌山方面に行くと毎回必ず何度か目にするくらいにはメジャーな食べ物。
ここではお土産用に、というか帰りの電車で食べるように買った。

お店の方と話をする。
大阪から来たこと、速玉神社でお参りをしたこと、かつて訪れたことがあること。
他愛もない話をしている中で、その女性の方が言った

「神倉さんには行かれましたか?」

なんだろう初耳だ。
知らない、と答えると丁寧に教えてくださった。
時間があるならぜひお参りしてくださいとのこと。
お礼を言って、早速向かうことにした。
自転車だったら5分もあれば到着するとのことで、住宅街の中を抜けていく。
途中看板に助けられながらも到着した。
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神倉神社。
話を聞いてみると、先ほどの熊野速玉神社以前の話というか、ここが大元なのだとか。
まだ社殿がない頃の原始信仰、自然信仰時代の、熊野大神が最初に降臨したという聖地中の聖地らしい。
神倉、というと岩のことだから、奇岩、あるいは巨岩信仰なんだろうか。

何よりこの神社を特徴づけているのはそのあまりに険しい参拝道だろう。
階段。
いや、壁。
もはやロッククライミング。

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正直、前情報なしで来たものだから、本当に驚いた。
これはあれだね熊野古道の一部だね(調べてみると実際にそうらしい)
険しさで言うと私が今まで見てきた立ち寄り所の中ではトップクラス。間違いなく。

はっきり言って足が悪い人、高所恐怖症の人はやめておいた方がいい。
ビンディングシューズの人も要注意。
私はスピードプレイだからウォーカブルカバーでなんとか登れたけれど、降りる時は本当に怖かった…。

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転んだら、死ぬ(本気で)


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実際に帰りのことだけれど足がすくんで動けなくなっている人がいたから助けたよね!
もうすっごい。
体験としては面白いけれど。
うん、良いところを教えてもらった。

五百数十段の階段を上り切ると、社殿がついに。
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これが例の巨岩、御神体。
ゴトビキ岩というらしい。
配置バグにしてか見えない。
いったいいつからあるのかも正確にはわからないらしい。
それこそ数千年前のことで、当時の人々はここから信仰を始めたんだろうか。
ちなみにここが最初だからさっきの熊野速玉神社は改めて建造した神様の新築みたいなもの。
神々を祀るための新しい神社ということで「新宮社」と呼ばれているらしい。

時刻は夕暮れ時。
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新宮の街を全て見渡すことができた。

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太平洋を望み熊野信仰が根付く街。

自然と共存していくしかない土地。

今も昔も本質は変わってないんだろうな、と思う。
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で、ここから駅が見えてるわけだけれど、この神倉神社が思ったよりハードだったこともあって
列車が出るまであと40分しかない。
急ぎたいけれどさっきのロッククライミングを下ることになるものだから、なんともギリギリだったことだけは書いておこう。

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新宮駅からは特急くろしお号で新大阪駅まで。
乗り換えなしで楽だけれど、所要時間はたっぷり4時間30分。
新宮の町に着いたのが16時くらいなのに、家に着いた時には23時だった。
改めて和歌山、大阪の隣とは思えない距離感。時間感。
Kindleで読書をしたり、仮眠をしたり、音楽を聞いたり。


今回も良い旅でした。
うん、良い旅だった。
満足。


    
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Comments 1

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次回記事のご参考までにどうぞ。
厳密に言うと、獅子岩や熊野灘は三重側

 >さっきまで山の中にいたとは思えない目の前の景色。
 >和歌山の面白いところ。
新宮市と熊野市は”地続き”なので混同している人が割といますが、
大阪からも名古屋からも遠い両県の地元の方々にとって こうした混同は必ずしも
有難い話ではないと思います。『記・紀』について もしご興味があればどうぞ。
近畿圏の話として、熊野や伊勢の話が頻繁に出てきます。

 「『古事記』現代語訳のおすすめ【5選】」2020.07.29
ttps://book-guidance.com/kojiki-recommendation5/

私は、学生時分から漢文に興味があったところ、
以前、『現代語訳 古事記』福永武彦(河出文庫)を読んだことがあるのと
あと、『平家物語』や伊勢平氏(平忠盛)に 少し興味があったのでたまたま気が付きましたが、
ネットで紀行記事や乗り鉄の記事を読んでいると、
熊野信仰に限らず、伊勢神宮と朝廷(大和・京)との繋がりを知れば、
古道や旧街道の意義が現代との関係から、さらに深く掘り下げられるのではないか、そう感じることがよくあります。

貨幣経済も発達せず、集落を結ぶ道も整備されず、さらには自転車すらない、
そんな明治時代の遥か昔から、よくこれだけ津々浦々を巡る海路や陸路が整備されていたのものだと感心します。
徒歩の時代に見えた旅の風景や自然への敬意は、現代人が観光で得る者とは異質のもの。
そんな旧道に近い旅路をゆく つむりさんには「県境や行政区分を飛び越えた」
古代の旅人に迫る 紀行・エッセイ記事を期待しています。

 >清盛の熊野参詣は、途中船を用いる伊勢路であった。
 >通常、紀伊路を用いるのが公式のルートであり、紀伊路でも近距離は船を用いることもあったが、
 >伊勢国安濃津より乗船し、熊野参詣を試み た記述からすると、海路によるものであった。
 「平家物語と熊野参詣」大洋 和俊
ttp://www.shizuoka-eiwa.ac.jp/media/kiyou11-02.pdf

  • 2022/02/09 (Wed) 21:36
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